離婚問題の知識と法律

離婚後の氏と戸籍(本人・子どもへの影響など)

離婚が成立すると、夫婦の戸籍は別々になります。
また、婚姻によって氏(姓)を変更した方(主に女性)は、離婚後に婚姻前の氏(旧姓)と婚姻中の氏、どちらを名乗るのかを考えなければなりません。
そして、それぞれ状況に応じて手続が必要です。

そこで、離婚後の氏と戸籍はどうなるのか、どのような手続が必要かを解説します。子どもの氏と戸籍についても、併せて確認しておきましょう。

離婚後の氏について

離婚後の氏がどうなるのかは、婚姻のときに氏を改めた場合と改めなかった場合で異なります。それぞれ見ていきましょう。

婚姻により氏を改めなかった場合

婚姻により氏を改めなかった(結婚後もそのままの姓を名乗っていた)場合は、離婚をしてもそのままの氏を名乗ることになります。そのため、氏に関する手続は必要ありません。

婚姻により氏を改めた場合

婚姻により氏を改めた(結婚後は配偶者の姓を名乗っていた)場合は、離婚をすると原則として婚姻前の氏(旧姓)に戻ります。これを「復氏」といいます。

ただし、「婚氏続称の届け出」や「氏の変更許可の申立て」をすることで、離婚後も婚姻中の氏を名乗ることが可能です。以下で詳しく見ていきましょう。

婚姻費用により氏を改めた人の場合

婚氏続称の届け出

戸籍法上の「離婚の際に称していた氏を称する旨の届(婚氏続称の届)」を出せば、離婚後も婚姻中の氏を名乗ることが可能です。これを「婚氏続称制度」といいます。

「婚氏続称の届」は、離婚の日から3ヵ月以内に夫婦の本籍地または届け出人の所在地の役所に提出しなければなりません。
この届け出期間は、たとえ地震などの自然災害があったとしても延長されないと考えられています。これは、「離婚後の氏は、速やかに確定させるべき」という政策的観点によるものです。

婚氏続称の届け出は、離婚の届け出と同時に手続できるため、あらかじめ「氏をどうするか」について決めておくとよいでしょう。

氏の変更許可の申立て

離婚後3ヵ月以上経ってから婚姻中の氏を名乗りたいと思った場合、家庭裁判所に対し「氏の変更許可」(戸籍法第107条1項)を申し立てます。

ただし、「氏の変更」が認められるためには、「やむを得ない事由」がなければなりません。「やむを得ない事由」とは、現在の氏により社会生活上で不利益・不便が生じているなどの事情をいいます。つまり、「単に気に入らない」というだけでは認められないということです。

「離婚により旧姓に戻ったが氏の変更をしたい」、「婚氏続称をしたが旧姓に戻りたい」という場合の「氏の変更」は、一般的にほかのケースよりも認められやすいといえます。
しかし、家庭裁判所への申立てには時間と労力がかかり負担が大きく、氏の変更が許可されないおそれもあるため、離婚時に「氏の選択」を行い、婚姻時の氏をそのまま名乗りたい場合には期間内に婚氏続称の届け出をしておくべきでしょう。

離婚後の戸籍について

離婚後の戸籍は、婚姻中の戸籍の筆頭者(夫婦のうち婚姻により氏を改めなかったほう)や、離婚後の氏をどうするかによって異なります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

あなたが筆頭者である場合の戸籍

あなたが戸籍の筆頭者であり婚姻により氏を改めなかった場合は、離婚後も戸籍に変動はなく、そのままの戸籍にとどまります。そのため、特別な手続は必要ありません。

なお、元配偶者の欄には、元配偶者の戸籍の移動が記され、名前欄の前に「除籍」と明示されます。

婚姻中は配偶者の戸籍に入っていた場合の戸籍

婚姻中、配偶者の戸籍に入っていた場合は、離婚をすると筆頭者の戸籍から除籍されます。除籍されるほうは、婚姻前の戸籍に戻るか、新しい戸籍を作るかを決めなければなりません。

婚姻前の戸籍に戻る(復籍)

離婚によって旧姓に戻った人は、原則として婚姻前の戸籍に戻ります。これを「復籍」といいます。

なお、婚姻前の戸籍から父母が別戸籍へ転籍している場合、転籍後の戸籍に入ることになります。

新しい戸籍を編製する

例外的に、以下の場合は、新しい戸籍を作りその戸籍に入ることになります。

  1. 婚姻前の戸籍が除籍されている場合
  2. 婚姻前の氏に戻った人が新戸籍編製の申し出をする場合
  3. 婚姻時の氏を名乗りたいとして婚氏続称の届け出を行った場合

新しい戸籍を作る場合は、本籍地を決める必要があります。一般的には、離婚後生活する住所を本籍地にすることが多いようですが、特に決まりはありません。

なお、復籍したあとでも新戸籍をつくることはできます。
反対に、新戸籍を作ったあとで「やはり婚姻前の戸籍に戻りたい」と思っても、戻ることはできないため注意が必要です。

離婚をすると戸籍にバツ(×)がつく?

離婚歴のある人が「バツ1」、「バツ2」などと表現されることがあります。
これは、電子化される前の戸籍において、離婚などを理由に戸籍から外れる(除籍される)と、名前欄にバツ(×)印がつけられていたためです。

しかし、現在の電子化された戸籍では「除籍」と記載されるため、実際にバツ印が付くわけではありません

なお、本籍地を変更した場合や復籍後に新しい戸籍を作った場合など、手続によっては書類上「除籍」の記載が残らない場合もあります。
気になる方は、戸籍謄本を取って確認してみるとよいでしょう。

子どもの氏と戸籍

離婚すると、子どもの氏と戸籍はどうなるのでしょうか。それぞれ、詳しく見ていきましょう。

(1)子どもの氏について

父母が離婚しても、子どもの氏は当然には変更されません。
つまり、離婚によって子どもの親権者が旧姓に戻った場合も、何も手続をしなければ子どもの氏は婚姻中の氏のままということです。この場合、親権者と子どもの氏が異なってしまいます。

また、親が婚氏続称の届け出をした場合であっても、「婚姻中の氏」と「続称の手続をとった氏」は、法律上、別の氏とされます。そのため、呼び方は同じであってもその親と子の氏は異なることになります。

たとえば、A山花子さんがB田太郎さんと結婚し、夫婦でB田という氏を名乗ることと決め、2人の間に次郎君という子どもが生まれたとします。
その後、花子さんと太郎さんが離婚し、花子さんが婚氏続称の手続をして「B田」という氏をそのまま名乗ることにした場合、花子さんと次郎君は「B田」という呼び名は同じ氏であっても、法律上は別の氏として扱われるのです。

【整理】母親が旧姓に戻り親権者となった場合
母親が旧姓に戻り親権者となった場合

(2)子どもの戸籍について

子どもの戸籍は、自動的に親権者である親の戸籍に移動しないため、手続をしなければ婚姻中の戸籍のままです

また、子どもと親の氏が異なる場合、子どもは親の戸籍に入ることができません。
つまり、子どもの親権者が旧姓に戻った場合、子どもの氏を自分と同じ氏に変更しない限り、自分と同じ戸籍に入れることはできないということです。

そのため、家庭裁判所に「子の氏の変更許可(民法第791条)」を申し立て、子どもの氏を自分の氏と同じにする必要があります。

親が復籍し筆頭者にならない場合

離婚後に復籍し婚姻前の戸籍に戻るケースで、親がその戸籍の筆頭者でない場合には、子どもが氏を変更しても復籍した戸籍には入りません。この場合、子どもの親を筆頭者とする新しい戸籍を作る必要があります

これは、戸籍は夫婦および夫婦と氏を同じにする子どもごとにつくられる(戸籍法第6条)ことになっており、親が復籍した戸籍の筆頭者がその親の両親(子どもにとっては祖父・祖母)だと、「親・子ども・孫」の三世代の戸籍になってしまい、戸籍法に反してしまうためです。

(3)子どもの入籍手続

家庭裁判所による子どもの氏の変更許可のみでは氏の変更の効力は生じません。
子どもが親の戸籍に入籍する旨の届け出が必要です。これにより、子どもの氏の変更の効力が生じます。

【整理】氏を変更した親権者(母親)が子どもを自分の戸籍に入れる手続
氏を変更した親権者(母親)が子どもを自分の戸籍に入れる手続

子どもの入籍手続に必要な書類や届け出先について、詳しくは「離婚前後のやることリスト」も参考にしてみてください。

監修者情報

弁護士

林 頼信

はやし よりのぶ

資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
慶應義塾大学法学部

どのようなことに関しても、最初の一歩を踏み出すには、すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば、なおさらです。また、法律事務所や弁護士というと、何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も、弁護士になる前はそうでした。しかし、法律事務所とかかわりをもつこと、弁護士に相談することに対して、身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに、皆さまの問題の解決に向けて、精一杯取り組みます。

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