裁判離婚とは?メリット・デメリットや手続の流れ、長引かせないポイント
「裁判離婚」は、家庭裁判所に訴訟を提起し、裁判上の手続で離婚を成立させる離婚方法です。離婚調停が不成立になった場合や審判に異議が出た場合には、裁判離婚を検討することになります。
このページでは、裁判離婚の手続の概要に加え、離婚裁判のメリット・デメリット、手続に必要な書類・費用・期間、手続の流れやポイントなどについて解説します。
離婚裁判の提起を検討している方や、これから離婚を進めようとお考えの方はぜひ参考にしてみてください。
目次
このページでわかること
- 裁判離婚とは何か
- 離婚裁判を行うメリット・デメリット
- 離婚裁判をスムーズに進めるためのポイント
裁判離婚とは?
裁判離婚とは、離婚調停が不成立となった場合や離婚の審判(調停に代わる審判)に異議が出た場合に、家庭裁判所に訴訟を提起し、裁判上の手続で離婚する方法です。離婚をするかどうかだけでなく、親権や養育費、財産分与などについても裁判所に判断してもらえます。
また、協議離婚や調停離婚とは異なり以下のような特徴があります。
夫婦お互いの合意がなくても離婚できる
離婚協議や離婚調停では、夫婦がお互い合意していなければ離婚することができません。
しかし、離婚裁判で離婚が認められれば、夫婦の一方が離婚を拒否しても強制的に離婚できます。
離婚が認められるためには法定離婚事由が必要
離婚裁判では、合意が不要である一方で、原則として以下のいずれかの法定離婚事由(民法で定められた離婚原因)がなければ離婚が認められません。
<法定離婚事由>
- 浮気・不倫(不貞行為)
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
たとえば、「性格の不一致」などはこれらの法定離婚事由にあたりません。そのため、性格が合わないというだけでは離婚裁判において離婚が認められない可能性が高いといえます。
法定離婚事由について詳しくは、以下のページもご覧ください。
調停を経ずに裁判を提起することはできない
離婚裁判を提起するためには、原則として離婚調停を経ていなければなりません。これを「調停前置主義」といいます。
調停前置主義がとられているのは、離婚問題は人間関係の調整が必要であり、法廷で争うよりもお互いに譲り合い円満かつ自主的に解決することが望ましいと考えられているためです。
なお、配偶者が行方不明であるケースや、海外に住んでいて話合いができないケースなどでは、例外的に調停を経ずに離婚裁判を提起できます。
離婚裁判を行うメリット・デメリット
離婚裁判にはメリットがある反面、デメリットもあります。以下で詳しく解説します。
離婚裁判を行うメリット
離婚裁判を行う最大のメリットは、離婚するかどうか結論を出してもらえることです。
夫婦間の話合いでは、感情に左右されてしまいなかなか結論が出ないこともあります。しかし、離婚裁判であれば証拠や法律に基づき冷静かつ公平に判断してもらえるでしょう。
また、裁判で下された判決には強制力があります。
そのため、たとえば離婚裁判で判断された財産分与や養育費、慰謝料などについて判決のとおり支払われなかった場合などには、法的な措置をとることも可能です。
ただし、判決が確定した場合、原告(裁判を提起した側)は同じ内容で再び裁判を提起することはできません。そのため、判決に不服があっても従わなければならない点には注意が必要です。
離婚裁判を行うデメリット
離婚裁判のデメリットは、費用や労力がかかることです。
具体的な内容によっても異なりますが、離婚裁判を提起するだけで、少なくとも約2万円の費用がかかります。争う内容や金額によっては、費用の負担が大きくなることもあるでしょう。
また、争点が多い場合は判決までに数年かかることも少なくありません。
その間、何度も裁判所に足を運んだり、法的な根拠に基づいた主張を組み立てたり、書面の作成をしたりする必要があるため、時間的・精神的にも大きな負担になってしまいます。
離婚裁判を提起する前に知っておきたいこと
離婚裁判を提起する前に、必要書類や費用について知っておきましょう。
離婚裁判の必要書類
離婚裁判を提起するために必要な主な書類は、以下のとおりです。
書類 | 必要性 | 入手場所 |
---|---|---|
訴状2部 | 必ず | 裁判所ホームページ |
夫婦の戸籍謄本 | 必ず | 市町村役場 |
夫婦の戸籍謄本のコピー | 必ず | |
年金分割のための情報通知書 | 年金分割を希望する場合 | 年金事務所など |
年金分割のための情報通知書のコピー | 年金分割を希望する場合 | |
証拠書類(源泉徴収票や預金通帳など) | 必ず | |
証拠書類のコピー2部 | 必ず | |
調停不成立証明書または事件終了証明書 | 離婚調停と異なる家庭裁判所に裁判を提起する場合 | 離婚調停が行われた裁判所 |
なお、被告の数によって必要な書類の通数が異なります。
たとえば、配偶者の不倫相手に対しても訴訟を提起する場合には、人数の分だけ追加の書類が必要です。
離婚裁判にかかる費用
離婚裁判を提起する際にかかる主な費用は、以下のとおりです。
費用の項目 | 金額 | |
---|---|---|
収入印紙代 | 離婚のみ | 13,000円 |
財産分与 | +1,200円 | |
養育費など子の監護に関する処分 (1人あたり) |
+1,200円 | |
慰謝料 | 請求額によって異なる(※) | |
切手代 | 6,000円程度(裁判所によって異なる) | |
夫婦の戸籍謄本の取得費用 | 450円 | |
年金分割のための情報通知書の取得費用 | 1,200円 |
※離婚のみ(13,000円)と慰謝料請求の手数料を比較し、いずれか高いほうの収入印紙代がかかります。
このほか、必要書類の取得費用や交通費などの実費、鑑定や証人尋問を実施する場合は家事予納金などが必要になる場合もあります。
また、離婚裁判を弁護士に依頼する場合は、相談料や着手金、報酬金などの弁護士費用がかかります。
離婚裁判の流れ
離婚裁判は、大まかに以下のような流れで進みます。

以下で詳しく見ていきましょう。
①家庭裁判所へ訴訟提起
まずは、夫婦どちらかの住所地を管轄する家庭裁判所に訴状を提出し、訴訟を提起します。
ただし、住所地と異なる家庭裁判所で離婚調停を行った場合、裁判所の許可があれば離婚調停を行った家庭裁判所に提出することも可能です。
必要書類を裁判所に持参または郵送で提出し、訴訟を提起しましょう。
訴状が受理されると、裁判所により第1回期日が指定され、配偶者に訴状と口頭弁論期日呼出状が届きます。第1回期日は、訴訟提起から約1ヵ月後に指定されることが多いです。
②裁判期日
裁判期日には、夫婦がお互いの意見を主張し証拠を提出することで、争いの内容を整理します(口頭弁論)。
多くの場合、第1回口頭弁論で判決が下されることはありません。そのため、その場で次回期日の調整も行われます。裁判期日は、必要に応じて月1回程度のペースで設けられるのが一般的です。
証拠や争点が整理されると、「証拠調べ」として当事者や証人への尋問(本人尋問・証人尋問)が行われます。
尋問は、本人や証人が代理人や裁判官からの質問に答える手続です。質問に答えるなかで、事実や証拠の信ぴょう性を示していきます。
なお、本人尋問の前には、夫婦それぞれが自分の主張をまとめた「陳述書」を提出することも多いです。
③判決または和解
裁判を進めていくなかで、裁判所から和解をすすめられることがあります。その際、夫婦がお互いに合意すれば、離婚が成立し離婚条件などが決まります(和解離婚)。和解の手続は、裁判中いつでも可能です。
和解が成立しない場合は、裁判所が離婚の可否や離婚条件を判断します。離婚を認める判決が出れば離婚は成立です(判決離婚)。
離婚が成立したら、離婚成立から10日以内に和解調書や判決の謄本を添えて離婚届を市区町村役場に提出しましょう。離婚の成立は、和解離婚の場合は和解成立時、判決離婚の場合は判決確定日となります。
なお、判決に納得がいかない場合などには、判決から2週間以内であれば控訴を提起し、高等裁判所での審理に移行することも可能です。
離婚裁判にかかる平均期間
裁判所が公表している『人事訴訟事件の概況』によると、令和5年に終了した離婚裁判全体の審理期間(訴訟提起から判決または和解までの期間)の平均は15.3ヵ月です。
このうち一方が裁判に出席しなかったり和解したりして早期終了したケースを除くと、審理期間の平均は19.9ヵ月となります。
つまり、一概にはいえないものの、離婚裁判にかかる期間の目安は1年~2年程度といえるでしょう。
親権や財産分与などに争いがあるケースなど、複雑な事情がある場合は、さらに長期化することもあります。
離婚裁判をスムーズに進めるためのポイント
このように、離婚裁判は長期化してしまうことも少なくありません。
そこで、少しでも離婚裁判をスムーズに進めるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
証拠や資料を集めておく
裁判では、提出した証拠や資料をもとに事実認定が行われます。証拠によって法定離婚事由があることを証明できなければ、離婚を認めてもらえません。
そのため、事前に法定離婚事由があることを証明できる証拠を集めておきましょう。
たとえば、不貞行為があったケースであれば、不貞行為の事実がわかる写真やメッセージのやり取りなどが証拠になり得ます。
また、財産分与や養育費などの離婚条件を決定する際には、預貯金通帳や残高証明書、源泉徴収票などの資料を揃えておくことも大切です。
証拠や資料があれば、裁判においてスムーズかつ適切に判断してもらえるでしょう。
和解による解決を検討する
裁判のなかで和解案を提示された際、話合いにより裁判上の和解ができれば、その時点で裁判を終えて離婚できます。
比較的短期間で離婚を成立させられて、判決を得るより柔軟な解決ができるというメリットもあるため、「これ以上裁判を長引かせたくない」というケースでは、和解離婚を検討してもよいでしょう。
ただし、お互いに歩み寄って離婚を成立させることになるため、離婚条件を譲歩しなければいけない場合もある点には注意が必要です。
なお、被告(裁判を提起された側)が原告(裁判を提起する側)の提示する条件を全面的に受け入れた場合にも、裁判上で判決を得ずに離婚できます(認諾離婚)。
弁護士に依頼する
離婚裁判の手続には法的知識が必要です。
訴訟を提起するだけでも時間がかかってしまうことや、適切な主張ができずに問題が長期化してしまうこともあり得ます。
そのため、少しでもスムーズに離婚裁判を進めたいのであれば、弁護士に依頼するのがよいでしょう。
弁護士に依頼すれば、法的知識に基づいて書類の作成や主張・立証を代わりに行ってもらえます。
裁判をスムーズかつ有利に進められる可能性が高まり、時間的・精神的な負担も大きく軽減できるはずです。
離婚裁判のよくある質問
離婚裁判について、お客さまからよく寄せられる3つのご質問にお答えします。
離婚裁判の費用は誰が支払いますか?
裁判所に支払う訴訟費用は、一旦は原告が支払うのが原則です。
もっとも、判決が下される際には、裁判所の判断で訴訟費用の負担割合が決まります。原告はその内容に応じて訴訟費用額確定処分を申し立てたうえ、被告に対し訴訟費用(弁護士費用を含まない)を請求する制度があります。
弁護士に依頼する場合の弁護士費用は原則として依頼者本人が支払わなければなりません。
ただし、不倫の慰謝料などを請求する場合には、弁護士費用の一部(認められた金額の10%程度)を含めて請求できる可能性もあります。
離婚裁判で離婚できる確率はどれくらいですか?
裁判所が公表している『人事訴訟事件の概況』によると、令和5年の離婚裁判で判決が下された3,027件のうち、2,699件で離婚や請求の一部が認められています。そのため、判決が下されたケースでは約9割の確率で離婚に関する請求が認められる可能性があるといえるでしょう。
ただし、和解により離婚の可否を決めたケースは含まれていないため、一概にはいえません。
離婚裁判で負ける理由にはどのようなものがありますか?
たとえば以下のような理由があるケースでは、あなたが「離婚したい」と思って離婚裁判を提起しても離婚が認められない可能性があります。
- 法定離婚事由がない
- 証拠が十分ではなく主張を証明できない
- 自身に有責行為(モラハラやDV、不貞行為など)があった など
また、配偶者が弁護士を立てているのにもかかわらずご自身で対応しようとすると、配偶者にとって有利な状況に持ち込まれてしまうケースもあるため注意が必要です。
離婚裁判を進めるのが不安なら、弁護士にご相談を
裁判離婚は、訴訟を提起し裁判所に離婚を認めるかどうかや離婚条件について決めてもらう手続です。
裁判で離婚が認められるためには法定離婚事由が必要ですが、夫婦の一方が離婚を拒否している場合でも、強制的に離婚できる可能性があります。
ただし、解決までには1年~2年程度かかることも少なくありません。法的知識に基づいて証拠を用意し、適切に主張・立証ができないと、さらに長期化してしまうおそれもあるため注意が必要です。
そのため、離婚裁判を少しでもスムーズに進めたいのであれば弁護士に依頼し、代わりに手続を進めてもらうことをおすすめします。
アディーレ法律事務所では、離婚専属チームを設け、ご依頼に対応しております。ご状況に合わせ、納得できる解決へ向けてサポートいたしますので、まずはご相談ください。
監修者情報

- 資格
- 弁護士
- 所属
- 東京弁護士会
- 出身大学
- 慶應義塾大学法学部
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。