財産分与
「離婚をするとき、夫婦で購入した家や車、貯めてきた貯金、掛け金を支払ってきた保険はどうなるの?」
これが「財産分与」のお話です。
「財産分与」と聞いてもピンとこない方が多いと思いますが、とても大事な問題ですので、財産分与に関する知識をしっかりと備えておきましょう。
このページでわかること
離婚に伴う財産分与とは
財産分与とは、婚姻生活中に夫婦で協力して築き上げた財産を、離婚の際にそれぞれの貢献度に応じて分配することをいいます。
法律にも、離婚の際には相手方に対し財産の分与を請求することができる(民法第768条1項、771条)と定められています。
離婚を急いでしまうと、夫婦の財産について細かい取決めをせずに、もらえるはずの財産をもらわないまま別れることになりがちです。しかし、財産分与は法律上認められている権利ですので、しっかり取決めをすることが重要です。
財産分与をしないと離婚できない?
夫婦間で合意すれば、財産分与をせずに離婚することも可能です。
財産分与をしない選択をすることを、「財産分与請求権の放棄」といいます。
ただし、財産分与請求権の放棄は、原則として撤回することができません。特別な事情がない限りあとになって財産分与を求めることはできないため、注意しましょう。
また、配偶者が財産分与の放棄に応じない場合に、配偶者の意思に反して放棄を強制させることはできません。
財産分与の種類
財産分与には、大きく分けて3つの種類があります。
清算的財産分与 | 夫婦が婚姻中に形成した財産の清算 |
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扶養的財産分与 | 離婚により困窮する(元)配偶者の扶養 |
慰謝料的財産分与 | (元)配偶者を傷つけたことに対する慰謝料としての意味を含むもの |
清算的財産分与
財産分与の中核であり、もっとも重要となるのが、清算的財産分与です。
清算的財産分与では、結婚している間に夫婦間で協力して形成・維持してきた財産について、その名義のいかんにかかわらず「夫婦の共有財産」と考え、夫婦の共有財産をそれぞれの貢献度に応じて公平に分配します。
清算的財産分与は、離婚原因があるか否かによっては左右されず、あくまで2人の財産を2人で分けましょうという考え方に基づくものです。そのため、離婚原因を作ってしまった側である有責配偶者からの請求でも認められることになります。
扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚をした場合に夫婦の一方が生活に困窮してしまうという事情がある場合に、その生計を補助するという扶養的な目的により財産が分与されることをいいます。
扶養的財産分与は、離婚時に夫婦の一方が病気であったり、経済力に乏しい専業主婦(主夫)であったり、高齢・病気であったりする場合に認められることがあります。
経済的に強い立場の配偶者が、他方の経済的弱い立場の配偶者に対して、離婚後もその者を扶養する目的があるため、一定額を定期的に支払うのが一般的です。
慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、慰謝料請求としての性質を持つ財産分与のことをいいます。
離婚の際に、慰謝料の請求が問題になるケースがあります。慰謝料と財産分与は性質が異なるものですから、本来は別々に算定して請求するのが原則です。
しかし、両方とも金銭が問題になるため、慰謝料と財産分与を明確に区別せずにまとめて「財産分与」として請求をしたり、支払いをすることがあります。この場合の財産分与は「慰謝料も含む」という意図があるので、慰謝料的財産分与と呼ばれます。
財産分与の対象となる財産
財産分与をする場合、財産分与の対象となる財産を確定することが必要です。財産分与の対象となる財産を見逃してしまえば、あとになって「損をした」という結果になりかねず、取り返しがつかない場合もあります。
財産分与の対象となる財産と、対象とならない財産は、次のように考えられています。
財産分与の対象となるもの(=共有財産)
財産分与の対象となるのは、「共有財産」です。
共有財産か否かの判断は、財産の名義によるのではなく実質的な判断によります。
つまり、婚姻中に夫婦の協力により形成・維持されてきた財産であれば、名義を問わず、財産分与の対象である共有財産と判断されるということです。
ただし、原則として「別居時」を基準に確定されるため、離婚前であっても別居後に取得された財産は、財産分与の対象にはなりません。これは、別居後に取得した財産は、「夫婦が協力して得たとはいえない」と考えられるためです。
具体的には、以下のようなものが共有財産として財産分与の対象となり得ます。
- 不動産
- 現金・預貯金
- その他経済的価値があるもの
- 保険
- 退職金
- 年金
それぞれ詳しく見ていきましょう。
不動産
婚姻中に購入した家や土地などの不動産は、共同名義・単独名義にかかわらず、夫婦の共有財産として財産分与の対象になります。
ただし、以下の場合には、分与割合が小さくなる可能性があります。
- 夫婦どちらかが結婚前に貯めた貯金などで購入した場合
- 夫婦どちらかの親族の援助を受けて購入した場合
なお、住宅ローンが残っていてオーバーローン(住宅ローンの残存>家の査定価値)である場合は、基本的には財産分与の対象とならないため、注意が必要です。この場合、ローンの名義人が返済を続ける必要があります。
現金・預貯金
婚姻中に貯めたお金であれば、共同名義・単独名義にかかわらず、夫婦の共有財産として財産分与の対象になります。
「誰の収入で貯めたお金であるか」も関係ないため、たとえば、専業主婦(主夫)で収入がない場合あっても分配されます。
その他経済的価値があるもの
自動車や家具・家財などの生活必需品や、貴金属や美術品など一定の経済的価値が認められるものは、婚姻中に購入したものであれば共有財産として財産分与の対象となります。
また、婚姻中に購入した株式や国債などの有価証券も財産分与の対象です。
有価証券は評価額が変動するため、一般的には離婚成立時の評価額で分配されます。
保険
婚姻中に加入した生命保険や学資保険などは、解約返戻金が発生するものに限り、受取人が誰であるかにかかわらず解約返戻金に相当する部分が財産分与の対象になります。
結婚前に加入した保険であっても、結婚後も保険料を支払っていたのであれば、婚姻期間に相当する部分の解約返戻金は財産分与の対象です。
ただし、学資保険は子どもの将来のための備えという側面もあるため、夫婦で合意ができれば、毎月支払う保険料を養育費の一部と考えて財産分与の対象としないこともできます。
退職金
退職金は、「給与の後払い」としての性質があると考えられているため、ほかの財産と同様に夫婦の共有財産として財産分与の対象になり得ます。
ただし、これから支払われる予定の退職金は、以下のような「支払いの確実性」を考慮して判断されます。
- 就業規則等で退職金について定められているか
- 退職金の支給実態があるか
- 定年退職までどれくらい期間があるか など
なお、すでに支払われている退職金は、「婚姻期間」と「働いていた期間」が重なる部分の金額が財産分与の対象です。
退職金について、詳しくは以下のページをご覧ください。
年金
個人型確定拠出年金、企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、個人年金(保険会社や銀行、証券会社等が販売する保険商品・金融商品)などは財産分与の対象となり得ます。
ただし、厚生年金(以前の共済年金を含む)は、財産分与ではなく「年金分割」という制度で分割されます。
年金分割は、「厚生年金保険の部分」に限り、「婚姻期間中の保険料納付実績」を分割する制度です。国民年金は分割されないため注意しましょう。
年金分割について、詳しくは以下のページをご覧ください。
財産分与の対象とならないもの(=特有財産)
財産分与の対象にはならない財産として、「特有財産」があります。
特有財産とは、「婚姻前から一方が有していた財産」と「婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産」のことをいいます(民法第762条1項)。
「婚姻前から一方が有していた財産」とは、たとえば、独身時代に貯めた定期預金などです。
「婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産」とは、たとえば、婚姻中に発生した相続によって得た不動産などが考えられます。
ただし、特有財産にあたる財産でも、婚姻後に夫婦が協力したことによって価値が維持されたといえる場合や、価値が増加したのは夫婦の貢献があったからだといえるような場合には、貢献度の割合に応じて財産分与の対象とされる場合もあります。
マイナスの財産(債務)について
たとえば、夫がパチンコのために借り入れた多額の借金は、財産分与の対象になるのでしょうか。
借金などの債務は、夫婦の共同生活を営むために生じたのであれば、夫婦共同の債務として財産分与において考慮されるべきです。
しかし、もっぱら自分のために借り入れた個人的な借金は、財産分与において考慮されないと考えられています。
そのため、パチンコのために借り入れた借金は、財産分与においては考慮する必要はありません。
実務上は、夫婦の共有財産(プラスの財産)と夫婦の共同生活を営むために生じた債務(マイナスの財産)がある場合、プラスがマイナスを上回るのであれば、プラスの財産の合計からマイナスの財産を差し引いた残額を分配するのが一般的です。
財産分与の割合
財産分与の対象となる財産が確定されたら、次に、どのような割合で財産分与を分配するのかが問題となってきます。
財産分与の割合は、財産の形成や維持に夫婦がどの程度貢献したのかという点に着目して決めることになりますが、それぞれ2分の1ずつ分与するのが一般的です。
特に専業主婦の方は、「夫が会社勤めで稼いだお金だから…」と躊躇することもあるかもしれません。
しかし、たとえ夫だけに収入がある場合でも、「夫は会社で仕事を頑張り、妻は家で家事を頑張った」といえることから、夫婦の共有財産の財産分与の割合は、原則として「2分の1ずつ」と考えられているのです。
ただし、財産分与の割合は具体的な事案ごとに異なるため、例外的に個別具体的な事情によって割合が修正されることもあります。たとえば、夫婦の片方の特殊な努力や能力によって高額な資産形成がなされた場合には、その特殊な努力等を考慮すべきと考え、分与の割合が修正されることがあります。
財産分与の方法
財産分与は、以下のようにさまざまな方法で行うことが可能です。
また、財産分与の取決めは、次のように行います。
まずは、話合い(協議)です。財産分与は当事者が納得さえすれば、当事者の合意によって自由に定めることができるため、話合いによって財産分与を取り決めることができるのであれば、これが一番簡単な方法といえます。
ただし、当事者間のみで取決めをすると財産分与の対象財産に漏れがあったり、その計算方法を間違ってしまうこともあります。そのため、財産分与の対象財産がいくつかあるような複雑なケースでは、弁護士に依頼することがおすすめです。
当事者間の話合いでまとまらない場合には、離婚調停、離婚訴訟といった裁判所の手続を通して決めていくことになります。仮に、裁判所を通じた手続になる場合は、離婚協議(話合いによる離婚)以上に専門的な知識が必要となるため、弁護士にご相談いただくことを強くおすすめします。
なお、財産分与では、取決めた内容を記載した文書を作成することが一般的です。
将来にわたって分割で支払ってもらうような場合には、支払いが滞る危険性もあるため、給与の差押えなどがすぐにできるよう、公正証書を作成しておくことが望ましいでしょう。
財産分与の時期
財産分与は、一般的に、離婚と同時に取り決めます。しかし、離婚の際に財産分与の取決めをしなかった場合であっても、離婚後に財産分与を請求することは可能です。
ただし、財産分与を請求できる期間は、離婚したときから2年以内という制限があるため、注意が必要です(民法第768条2項ただし書き)。
2年という期間は長いように思えるかもしれませんが、バタバタしていると意外にあっという間に過ぎてしまいます。また、離婚後はお互いに連絡が取りづらくなることに加え、財産の把握が困難となったり、財産が散逸してしまったりするなどのリスクもあります。
そのため、できるだけ離婚時にきちんとした財産分与を行っておくことが望ましいでしょう。
皆、離婚時に財産分与でいくらもらっているの?
では、実際の財産分与の金額はどのくらいになるのか、以下のグラフを見てみましょう。
ただし、財産分与ではさまざまな事情が考慮されますので、ご自分が請求できる金額についてはご相談ください。
- ※上記のグラフは『令和3年 司法統計年報(家事編) 第27表 「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件数』に基づき、当事務所が独自に作成したものです。
- ※%=小数点第二位以下四捨五入。
監修者情報
- 資格
- 弁護士
- 所属
- 東京弁護士会
- 出身大学
- 慶應義塾大学法学部
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。