親権と監護権
離婚する際、「子どもをどちらが引き取るのか?」という話になります。
これは「親権・監護権」の問題です。
慰謝料や財産分与などは、離婚後に話し合って取り決めることができますが、子どもの親権は必ず離婚前に取り決める必要があります。また、「母親だから親権者になれる」、「父親だから親権者になれない」というわけではありません。
では、どのような事情を考慮して、どのように親権者を決めればよいのでしょうか。
このページでは、親権の基礎知識に加え、親権と監護権の関係、親権の決め方などについて解説します。親権を認めてもらうためにも、「親権・監護権」について正しく理解しておきましょう。
親権とは
親権とは、未成年の子どもを成人まで育て上げるために親が負っている一切の権利・義務のことです。
婚姻中は父母の両方に親権が認められていますが(共同親権)、離婚後は共同親権は認められていないため、父母のどちらか一方のみが親権を取得します。
親権は、大きく分けて以下の2つの内容で構成されています。
これらの権利は、どちらも「子どもの利益のため」に行使されなくてはなりません。それぞれ詳しく見ていきましょう。
財産管理権
身上監護権
これらは、いずれも親の権利です。しかしその一方で、社会的に未熟な子どもを保護して、子どもの精神的・肉体的な成長を図っていかなければならない親の義務という側面もあります。
成年(※)に達しない子どもは親の親権に服することになり、原則として、その親権は父母が共同して行使します(同法第818条3項本文)。
ただし、父母が離婚する場合、父母が共同して親権を行使することはできません。そのため、父母のいずれかを親権を行使する親権者として定める必要があります。
父母が協議上の離婚をする場合は、その協議で親権を行使する親権者を定め(同法第819条1項)、裁判上の離婚をする場合は、裁判所が父母の片方を親権者と定めます(同法第819条第2項)。
※民法改正のため、2022年4月1日より、成人(成年)年齢は20歳から18歳に引き下げられました。
親権と監護権
すでにご説明したように、親権のなかには「身上監護権(居所指定権、懲戒権、職業許可権等)」が含まれています。この「身上監護権」のみを取り出して、親が子どもを監護し教育する権利義務を「監護権」と呼んでいます。
つまり、「監護権」とは、親権のうち「子どもの近くにいて、子どもの世話や教育をする親の権利義務」ということです。
監護権は親権の一部ですから、原則として親権者がこれを行使します。一般的には、親権者と監護権者は一致したほうが、子どもの福祉に資すると考えられています。しかし、親権者が子どもを監護できない事情がある場合や、親権者でない片方が監護権者として適当である場合には、親権者と監護権者が別々になることもあり得ます。
たとえば、以下のようなケースです。
- 親権者は父親だが、父親は海外出張で子どもの世話や教育がまったくできない
- 財産管理については父親が適任であるが、子どもが幼いので母親を監護権者としたほうが子どもの世話をするうえでは都合がいい
- 親権者をどちらにするか折り合いがつかず、そのままの状態では子どもの精神的・肉体的な成長に悪影響がある
上記のような事情がある場合、例外的に父親=親権者、母親=監護権者(逆ももちろんあり得ます)と定めることができます。
このように、親権と監護権は、原則として同一の親に帰属しますが、例外的に別々に定めることも可能です。
親権者を決める手続
協議離婚の場合、話合いにより夫婦のどちらか一方を親権者と決めます。未成年の子どもがいるケースでは、親権者を決めないと離婚できません。離婚届には親権者を記載する欄が設けられており、親権者を記載しなければ離婚届自体を、役所で受け付けてもらえないのです。
離婚の際に取り決めるべきさまざまな条件のうち、財産分与・慰謝料などについては、離婚後に取り決めることも禁止されてはいません(請求可能な期間が決められており、離婚後の請求が難しくなる場合はあります)。
しかし、親権者だけは、離婚する際に絶対に取り決める必要があります。
親権者が決まらない場合の手続
親権の帰属は重要な離婚の条件の一つですので、親権争いの話合いが決裂した場合は、そもそも離婚をするかしないか自体が問題になり得ます。そのため、親権が決まらない場合には、離婚調停を申し立て、その調停のなかで親権の話合いをするのが一般的です。
また、離婚調停で親権者の折り合いがつかず、離婚の条件がまとまらないために離婚調停が不調に終わったような場合、離婚訴訟を提起して離婚の成否や離婚の条件について争うことになります。
このとき、離婚の条件の一つとして、親権をどちらにするか裁判所に判断してもらうよう申立てをすれば、裁判所が判決で親権者を定めます。
このように、まずは話合いをし、そこで決まらないなら調停、それでも決まらないなら訴訟で裁判所に決めてもらうという流れで親権者を決めます。調停は、要するに調停委員を間に立てた当事者間での話合いですから、結局のところ、話合いでだめなら裁判所が強引に決めてしまうことになるわけです。
親権者等の変更
一度決めた親権者等を変更したい場合、親権者変更の調停・審判や、監護権者変更の調停・審判を家庭裁判所に申し立てて、新たな親権者を家庭裁判所で指定してもらうことになります。
この場合、子どもの利益のために必要があると認められるときに限って、親権者や監護権者が変更されます。ただし、変更すべき特段の事情が必要となりますので、ハードルは高いといえるでしょう。
親権者になるためには
では、裁判所に親権者と認めてもらうためには、どのようにすればよいのでしょうか。
親権とは、親の権利である一方で、社会的に未熟な子どもを保護して、子どもの精神的・肉体的な成長を図っていかなければならない親の義務でもあります。そのため、親権者指定の条件は、「子どもを十分に養育していけるか」、「子どもの成長のためにどちらを親権者としたほうがいいか」といった、子どもの利益を中心として考えられます。
具体的には、以下のような事情を考慮して、総合的に判断されます。
なお、子どもが乳幼児である場合は、子の監護の中心的な存在は母であることが多いことから、母が親権者として指定されることが多いです。しかし、これも養育能力の問題ですので、母親だから常に有利というわけでもありません。
また、15歳以上の子どもの親権を審判や訴訟で定める場合には、裁判所が子ども本人の陳述(考えや意思)を聞く必要があります。そのため、ある程度年齢の高い子どもであれば、親権者の決定には、子ども自身の意思がかなり重要になります。
不貞行為があった場合の親権者指定への影響
不貞をしていたという事情は、ほかの場面では非常に重要な問題になりますが、子どもの親権決定の場面においてはそれほど重要ではありません。そのため、不貞をしていたという事情のみで「親権者としてふさわしくない」と判断されることはありません。ただし、不貞行為により子どもに悪影響をおよぼしたという事情がある場合には、もちろん考慮されます。
注意すべきこと
子どもの環境の変化という観点から、既存の監護状態が重視される傾向があります。
しかし、夫婦が別居状態で離婚の話合いをしている最中に、子どもを監護していない親が、「無断で子どもを連れ去るなどの行為をすること」は、親権者を決める協議・裁判手続中であることを無視する不穏当な行為です。
親権者の適格性を判断するうえでは大きなマイナスとなることもありますので、注意が必要です。
監護権者を決める手続
監護権者になるための監護権者指定の手続は、親権者指定・変更の手続とほとんど同じです。
まず、夫婦で監護権者を決める話合いをし、それで決まらなければ、家庭裁判所への調停ないし審判の申立てによって、裁判所を介して監護権者を決めることになります。
監護権者を誰にするかという家庭裁判所の判断基準も、「子どもを十分に養育していけるか」、「子どもの成長のためにはどちらを監護権者としたほうがいいか」といった、子どもの利益・福祉を中心にして考えられます。
親権者指定の手続との違いは、監護権者が決まっていることは離婚の要件ではないという点です。そのため、監護権者は離婚したあとでも決めることができます。
なお、離婚前であれば、父母が共同で親権を行使するので、どちらか片方の親のみが親権者になるということは法律上あり得ません。しかし、離婚前に夫婦が別居している場合には、父母のどちらが子どもの面倒を見るか決めなければなりません。そのため、監護権者については、離婚前であっても父母のどちらか片方に決める必要があるのです。
また、早い段階であらかじめ監護権者を決めておくことにより、離婚後の子どもの教育・生育環境の急激な変化などの問題を回避することができます。
監修者情報
- 資格
- 弁護士
- 所属
- 東京弁護士会
- 出身大学
- 慶應義塾大学法学部
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。