離婚問題の知識と法律

退職金は離婚時に財産分与の対象になり得る!具体的なケースや金額は?

離婚における財産分与では、退職金も分与の対象になり得ます。
しかし、場合によっては財産分与の対象とならないケースもあるため注意が必要です。

このコラムでは、退職金が財産分与の対象となるケースに加え、財産分与の対象になる退職金の金額、実際に受け取れる退職金の計算方法などを解説します。
また、退職金を財産分与する際に注意すべきポイントも紹介します。

特に熟年離婚では、退職金や年金をいくら受け取れるのかが今後の生活に大きく影響するため、正しい知識をつけておきましょう。

このページでわかること

  • 退職金が財産分与の対象になるケース
  • 退職金を財産分与する方法
  • 退職金を財産分与する際の注意点

退職金は財産分与の対象になり得る

退職金には、「給与の後払い」としての性質があると考えられています。
そのため退職金は、預貯金などと同様に財産分与の対象になり得ます。

しかし、退職金を一律に財産分与の対象としてしまうと、退職金が支払われなかった場合に不都合が生じてしまいかねません。
これは、退職金が実際に支払われるのは一般的に退職のときであり、会社の経営状態や退職理由によっては、支払われない可能性もあるためです。

退職金が財産分与の対象となるかどうかは、離婚時の状況によって変わってきます。

退職金が財産分与の対象になるケース

以下のケースでは、退職金が財産分与の対象になる可能性があります。

退職金がすでに支払われており手元に残っているケース

退職金がすでに支払われている場合、離婚時に退職金相当額が残っていれば財産分与の対象になります。

一方で、退職金を受け取った時期がかなり前であり、離婚時に退職金相当額が残っていない場合には、財産分与の対象にならないと判断される可能性が高いです。

退職金がまだ支払われていないケース

退職金がまだ支払われていない場合、基本的には財産分与の対象になります。

これまでは、将来の退職金の支給がほぼ確実であると見込まれる場合に限り、財産分与の対象になると考えられていました。
たとえば、以下のような事情から「退職金の支給がほぼ確実」といえるようなケースです。

  • 就業規則等で退職金について定められている
  • 退職金の受け取りがほぼ確実な職業に就いている
  • 会社の経営状況が安定している
  • 10年以内に退職金を受け取る予定がある
  • 勤続年数が長い など

しかし最近では、支給がほぼ確実といえるかどうかにかかわらず、退職金は財産分与の対象とするべきであると考えられているようです。
そのため、たとえば定年退職の時期がかなり先であっても、退職金が財産分与の対象となる可能性は高いといえるでしょう。

退職金のうち財産分与の対象とする金額

退職金が財産分与の対象となるケースにおいても、その全額を受け取れるわけではありません。

退職金のうち財産分与の対象になるのは、夫婦として「退職金の形成に貢献した」といえる部分のみです。
一般的に、退職金の形成に貢献したといえるのは、以下のように「働いていた期間」と「婚姻期間」が重なる部分であると考えます。

財産分与の対象となる退職金

財産分与の対象となる退職金

結婚する前までの期間や、離婚してから退職までの期間に応じた退職金は、財産分与の対象にはなりません。

財産分与で受け取れる退職金の計算方法

財産分与の割合は、原則として2分の1です。そのため退職金だけで考えれば、「分与対象となる退職金の金額」の2分の1の金額を、財産分与で受け取れることになります。

「分与対象となる退職金の金額」の計算方法は、退職金がすでに支払われているのか、まだ支払われていないのかによって異なります。
以下でそれぞれ見ていきましょう。

退職金がすでに支払われている場合の計算方法

退職金がすでに支払われている場合、「寄与期間割合(配偶者が退職金の形成に貢献した程度)」と「支払われた退職金」をもとに分与対象となる退職金の金額を計算します。

  • 寄与期間割合=実質的な婚姻期間(同居期間)÷勤務年数
  • 分与対象となる退職金の金額=支払われた退職金×寄与期間割合
  • 財産分与で受け取れる退職金の金額=分与対象となる退職金の金額÷2

退職金がまだ支払われていない場合の計算方法

退職金がまだ支払われていない場合、「分与対象となる退職金の金額」の計算方法は、判例上いくつか考え方が示されています。代表的な考え方は、以下の2つです。

  • 現時点で退職したと仮定して計算する方法
  • 定年退職時に受取予定の退職金をもとに計算する方法

それぞれ詳しく解説します。

現時点で退職したと仮定して計算する方法

離婚(別居)時に自己都合退職したと仮定し、その場合の退職金相当額から婚姻前の労働分を差し引いた金額を分与対象とする考え方です。
簡単にいうと、「今退職したら退職金はいくらになるか」と考えて計算します。

  • 寄与期間割合=実質的な婚姻期間(同居期間)÷勤務年数
  • 分与対象となる退職金の金額=現時点で退職した場合に支払われる退職金×寄与期間割合
  • 財産分与で受け取れる退職金の金額=分与対象となる退職金の金額÷2

定年退職時に受取予定の退職金をもとに計算する方法

定年退職時に受け取る予定の退職金から、婚姻前労働分と離婚(別居)後労働分を差し引き、中間利息を控除して口頭弁論終結時の金額を算定する考え方もあります。
簡単にいうと、「将来受け取る退職金全体」から「今受け取る場合の利息分」を差し引き、寄与期間割合に応じた金額を対象とするということです。

  • 寄与期間割合=実質的な婚姻期間(同居期間)÷勤務年数
  • 分与対象となる退職金の金額=(定年退職時に受け取る予定の退職金-中間利息)×寄与期間割合
  • 財産分与で受け取れる退職金の金額=分与対象となる退職金の金額÷2

退職金の財産分与をする方法

退職金の財産分与をする場合、ほかの財産と同様にまずは夫婦間の話合いで合意を目指します。
配偶者が「支払いたくない」などと拒否をしているなど、話合いで合意できない場合、家庭裁判所を通した手続である「離婚調停」や「離婚裁判」のなかで取決めを行うのが一般的です。

なお、財産分与は一般的に離婚と同時に取り決めます。ただし、離婚した日から2年以内であれば、離婚後に財産分与の取決めをすることも可能です。
この場合も、まずは元夫婦間の話合いで合意を目指し、話合いで合意できない場合には、家庭裁判所に「財産分与請求調停」を申し立てることになります。

財産分与について詳しく見る

退職金の財産分与に関する注意点

退職金を財産分与する際には、以下の点に注意しましょう。

退職金を使い込まれると財産分与できなくなる

たとえば、離婚の協議・調停・裁判中に配偶者の定年退職が迫っているケースにおいて、退職金を使い込まれてしまうと財産分与ができなくなるため注意が必要です。

退職金の使い込みが心配であれば、裁判所に「仮差押え」を申し立てることも検討するとよいでしょう。

仮差押えとは、財産を一時的に処分できないようにする手続です。仮差押えをすると、離婚に関する問題が解決するまで退職金が支払われなくなります。
仮差押えは、退職金がこれから支払われる場合だけでなく、すでに支払われている場合にも申し立てることが可能です。

なお、仮差押えが認められるには、その必要性と退職金の見込額がわかる証拠を示す必要があります。

基本的に財産分与をした時点で支払う必要がある

退職金を財産分与した場合、基本的には離婚する時点(離婚後であれば取決めをした時点)で支払う必要があります。
退職金をまだ受け取っていない場合に、「退職金が支給されてから財産分与した金額を支払う」ということは基本的にはできません。

つまり、将来受け取る退職金を財産分与した場合、その分の資金を先に用意しなければならないということです。
退職金は高額となることも多いため、注意しましょう。

なお、相手が合意すれば分割払いをすることは可能です。

厚生年金は「年金分割」という制度で分割する

特に熟年離婚の場合には、退職金だけでなく年金が今後の生活の大切な資金となります。
年金のうち、任意で加入する厚生年金基金・国民年金基金などの「私的年金」の部分は財産分与の対象です。

一方で、厚生年金(以前の共済年金を含む)は、財産分与ではなく「年金分割」という制度で分割される点に注意しましょう。

婚姻期間中に配偶者が厚生年金を自分よりも多く支払っていた場合には、年金分割を請求できます。
年金分割では、「婚姻期間中に納めた厚生年金保険料の納付実績」について、2分の1を上限に分割することが可能です。

なお、基礎年金である「国民年金」の部分は財産分与や年金分割の対象にはなりません。

財産分与

年金分割について詳しく見る

まとめ

退職金は、すでに支給されている場合や、支給が確実といえる場合に、財産分与の対象となり得ます。
しかし、その全額が対象になるわけではありません。婚姻期間や、退職金がすでに支払われているかどうかによっても計算方法が異なります。

「退職金を財産分与の対象にできるのか」、「財産分与の対象となる金額をどのように計算すべきか」というのは、具体的なご事情に応じて専門的で複雑な判断が必要です。
そのため、退職金の財産分与について不安や疑問がある方は、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

アディーレでは、離婚に伴う財産分与についてご相談を承っております。「財産分与で損をしたくない」とお考えであれば、ぜひ一度ご相談ください。

監修者情報

林 頼信

弁護士

林 頼信

はやし よりのぶ

資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
慶應義塾大学法学部

どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。

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