有責配偶者とは?該当するケースと離婚条件への影響を弁護士が解説

- 公開日:2025年1月31日
- 更新日:2025年02月06日
有責配偶者とは、夫婦関係を破綻させ離婚する原因を単独で、または主に作った配偶者のことです。
夫婦の一方が有責配偶者であることは、離婚にさまざまな影響を及ぼします。
たとえば、有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。また、有責配偶者に対しては慰謝料を請求できるケースもあります。
このコラムでは、有責配偶者に該当するケースや、有責配偶者であることが離婚条件に及ぼす影響を解説します。
目次
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有責配偶者とは?該当するケース
有責配偶者とは、夫婦関係が破綻する原因を単独で、または主に作った配偶者のことをいいます。
離婚する際、必ずしも夫婦のどちらかが有責配偶者となるわけではありません。
たとえば、「性格の不一致」や「価値観の違い」などが原因で離婚に至ったとしても、どちらか一方のみに責任があるとはいえず、「夫婦関係が破綻する原因を作った」とまではいえないためです。
しかし、夫婦の一方に夫婦関係の破綻に繋がる責任を取るべき行為(有責行為)があった場合、裁判において「有責配偶者」であると判断される可能性があります。
有責行為とは、以下のような行為です。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄にあたる行為
- その他の夫婦関係を破綻させる行為
それぞれ詳しく見ていきましょう。
不貞行為
不貞行為とは、夫婦の一方が配偶者以外の異性と自由な意思で肉体関係を持つことです。
たとえば、夫が不倫をして妻以外の女性と肉体関係を持った場合などには、「不貞行為があった」と判断される可能性があります。
悪意の遺棄にあたる行為
悪意の遺棄とは、正当な理由がないのに夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務を果たさず、配偶者を放っておくことです。
たとえば、以下のようなケースが悪意の遺棄にあたるといえます。
- 一方的に別居をする、家を追い出す
- 家事や育児を一切しない
- 働く能力があるのに働かない
- 収入があるのに生活費を一切支払わない など
ただし、夫婦の義務を果たせない正当な理由がある場合や、配偶者の同意を得ている場合には、悪意の遺棄にはあたりません。
その他の夫婦関係を破綻させる行為
そのほかにも、たとえば以下のような行為があった場合には、有責配偶者と判断される可能性があるでしょう。
- 暴力・DV・虐待
- 重大な侮辱
- 不労
- 過度な浪費・借金
- 犯罪行為 など
有責配偶者と認められるには証拠が重要
裁判で「有責配偶者」と認められるには、有責行為があったことを客観的に示す証拠が必要です。
たとえば、以下のようなものが証拠になり得ます。
有責行為 | 証拠の例 |
---|---|
不貞行為 |
|
悪意の遺棄 |
|
その他の夫婦関係を破綻させる行為 |
|
上記のほかにも、証拠となるものがある場合がありますので、詳しくは弁護士に相談してみるとよいでしょう。
有責配偶者との離婚に関する3つのポイント
夫婦の一方が有責配偶者である場合、離婚における以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
有責配偶者が拒否しても離婚できる可能性がある
話合いや調停においては、夫婦の一方が有責配偶者であっても、お互いの合意がなければ離婚は成立しません。
しかし、最終的に裁判で有責行為が認められれば、有責配偶者が「離婚したくない」と主張しても離婚できる可能性があります。
有責配偶者からの離婚請求は原則として認められない
有責配偶者から「離婚してほしい」と求めることは、原則として認められません。
これは、自身の行いが原因で夫婦関係を破綻させたにもかかわらず離婚を求めるのは、不誠実だと考えられるためです。
ただし、夫婦間の話合いや調停で離婚請求をすること自体は可能です。夫婦がお互いに合意すれば、離婚は成立します。
また、以下の事情がある場合には、例外的に有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があるでしょう。
- 長期にわたり別居している
- 未成熟の子どもがいない
- 離婚しても配偶者が過酷な状況におかれない など
このほか、夫婦どちらにも責任があるといえる事情があり、夫婦関係が破綻している場合にも、離婚請求が認められる可能性があります。
有責配偶者の扱い自体に時効はない
法律上、有責配偶者として扱う期限の終期は定められていません。
つまり、「○年経ったら有責配偶者ではなくなる」ということはないのです。
そのため、たとえば配偶者の「過去の不貞行為」などを理由に離婚できる可能性があります。
一方で、配偶者に有責行為があったときから長期間が経過した場合や、夫婦関係が修復した場合には、その行為だけを理由に離婚が認められるのは難しくなるでしょう。
夫婦どちらも有責配偶者になることはある?
夫婦双方が離婚原因を作った場合(双方有責)、夫婦の両方ともを有責配偶者として扱うことはありません。
以下のように、責任の割合によってどちらを有責配偶者として扱うか判断します。
どちらか一方の責任が明らかに重い場合
どちらか一方の責任が明らかに重い場合には、夫婦のうち責任が重いほうを有責配偶者として扱います。たとえば、夫に長期間の不貞行為があり、妻にちょっとした暴言などがあったケースでは、夫が有責配偶者であると考えます。
この場合の離婚手続は、有責配偶者と有責ではない配偶者が離婚するときと同じです。
そのため、責任が軽い配偶者から離婚を求めることはできますが、責任が重い配偶者からは原則として離婚を求めることはできません。
お互いの責任が同程度の場合
お互いの責任が同程度である場合には、夫婦のどちらも有責配偶者ではないとみなします。
たとえば、夫婦双方に同程度の期間、不貞行為があったケースでは、「お互いさまである」と考えるのが一般的です。慰謝料などもお互いに請求せず、解決することもあり得るでしょう。
ただし責任が同程度であっても、不貞行為の証拠があれば、離婚調停を経て離婚訴訟を提起することはできます。
有責配偶者であることが離婚条件に及ぼす影響
離婚する際には、さまざまな離婚条件を取り決めなければなりません。
また、離婚前に別居する場合には別居中の生活費(婚姻費用)を請求することもあるでしょう。
以下では、有責配偶者であることがそれぞれの離婚条件に及ぼす影響について解説します。
慰謝料
有責配偶者が原因で離婚に至ったことや、有責配偶者の不法行為(不貞行為や悪意の遺棄など)によって精神的苦痛を被った場合、有責配偶者に対し慰謝料を請求できる可能性があります。
請求できる慰謝料の裁判上の相場は、具体的な事情によっても異なりますが、100万円~300万円程度であることが一般的です。
なお、有責配偶者に対し慰謝料請求をする権利には、以下のように消滅時効があるため注意が必要です。
慰謝料の種類 | 時効 |
---|---|
離婚に至ったこと自体に対する慰謝料 | 離婚が成立したときから3年 |
個別の不法行為に対する慰謝料 |
以下のいずれか短いほう
|
ただし、夫婦間で慰謝料を請求する場合、離婚から6ヵ月を経過するまで時効は完成しません(民法第159条)。
一方で、損害および加害者を知ったときから長期間が経過しているケースでは、慰謝料が認められないことや、認められたとしても低額になることはあり得ます。
財産分与
夫婦の一方が有責配偶者であっても、基本的に財産分与の割合が変わることはありません。夫婦の財産は、原則として2分の1ずつ分けることになります。
ただし、離婚の際に慰謝料が問題になるケースでは、慰謝料と財産分与を明確に区別せずに算定することも可能です。
この場合、有責配偶者はもう一方の配偶者に対し、慰謝料を含めた金額の財産を多めに分けることになります(慰謝料的財産分与)。
親権
有責配偶者であることだけを理由に、親権者になれないということはありません。
親権は、これまでの監護の実績や離婚後の子育ての環境など、子どもの利益・福祉を考慮して決まるためです。
有責配偶者であっても、これまで育児を主に担っており、子どもが健やかに生活していたのであれば、親権者となれる可能性はあるでしょう。
ただし、子どもを家に一人残して不倫相手と会っていたなど、有責行為自体が子どもに悪影響を与えていた場合、親権者としてふさわしくないと判断されることもあります。
養育費
夫婦の一方が有責配偶者であることを理由に、養育費の金額が増減することはありません。
もちろん、養育費の支払義務自体がなくなることや、養育費を受け取れなくなることもありません。
これは、養育費は子どもを育てるためのお金であり、夫婦の離婚原因とは関係ないためです。
離婚後は有責配偶者かどうかにかかわらず、子どもと離れて暮らす親(非監護親)が、子どもと暮らす親(監護親)に対して養育費を支払います。
面会交流
面会交流は、子どもが健やかに成長するために行われるものです。
そのため、子どもの福祉・利益に寄与する限り、有責配偶者であることだけを理由に、子どもと面会交流ができなくなることはありません。
ただし、有責配偶者が子どもに虐待を行っていたケースなど、具体的な事情によっては、子どもの福祉・利益を守るために面会交流が制限される可能性はあります。
年金分割
夫婦の一方が有責配偶者であることは、基本的には年金分割に影響しません。
有責配偶者であっても、配偶者よりも婚姻中の厚生年金保険料の納付金額が少ない場合には、年金分割を請求できます。
これは、年金分割が「厚生労働大臣等に対する公法上の請求権」であり、権利の行使自体を制約することはできないと考えられているためです。
「合意分割」の場合には話合いや裁判所を通した手続で、原則として2分の1を上限に按分割合を決めることになります。この按分割合は、夫婦の一方が有責配偶者であっても、ただちに増減が認められるものではありません。
「3号分割」の場合には、夫婦間で合意する必要はなく、当然に2分の1の按分割合で年金分割の手続ができます。
婚姻費用
証拠などから明確に有責行為をしたと判断できる場合、有責配偶者から婚姻費用の分担請求をしても認められない場合があります。
ただしそのような場合でも、婚姻費用のうち養育費(子どもの生活費・教育費)にあたる部分は請求することが可能です。
まとめ
夫婦の一方が有責配偶者である場合、離婚の交渉や取決めが複雑になりがちです。
夫婦間でスムーズに合意できればよいですが、相手が応じなければ最終的には裁判で離婚や慰謝料などについて認めてもらう必要があります。
そのため、できるだけスムーズかつ適切に離婚を進めるのであれば、弁護士に相談するのがおすすめです。
アディーレ法律事務所では、「不貞行為をした配偶者に離婚や慰謝料を請求したい」といった方からのご相談を承っております。まずはお気軽にご相談ください。
\専門スタッフが丁寧に対応します!/
監修者情報

- 資格
- 弁護士
- 所属
- 東京弁護士会
- 出身大学
- 慶應義塾大学法学部
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。