弁護士コラム

離婚するとき年金分割をしないとどうなる?損をするケースやデメリット

離婚するとき年金分割をしないとどうなる?損をするケースやデメリット
  • 公開日:2025年1月31日
  • 更新日:2025年02月06日

年金分割をするためには、離婚の際に夫婦での取決めや手続が必要です。
そのため、なかには「面倒だから年金分割はしなくていい」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

しかし年金分割は、将来受け取れる年金額に影響する大切な手続です。離婚時に年金分割をしないと、損をしてしまうおそれもあります。

そこでこのコラムでは、離婚時に年金分割をしないデメリットやリスク、年金分割をしなくてよい可能性のあるケースについて解説します。
年金分割をせずに離婚してしまった場合の対処法もご紹介していますので、将来、損をしないためにもぜひ最後までご覧ください。

この記事を読んでわかること

  1. 離婚時に年金分割をしないデメリット
  2. 離婚時に年金分割をしなくてもよい可能性のあるケース
  3. 年金分割をせずに離婚した場合の対処法

離婚時の年金分割とは?

年金分割とは、夫婦の一方が婚姻中に納めた厚生年金の納付実績の一部を分割し、もう一方が受け取れる制度です。

年金分割の対象となるのは「婚姻期間中に納めた厚生年金保険料の納付実績」の部分で、「国民年金」、「私的年金」、「婚姻前や離婚後に納めた厚生年金」は年金分割の対象にはなりません。
そのため、婚姻期間中に配偶者が第2号被保険者(民間の会社員・公務員など)として働いていた場合に限り、年金分割制度を利用できます。

年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があり、どちらの場合も原則として離婚日の翌日から2年以内に手続が必要です。
合意分割の場合には夫婦間での合意が必要ですが、3号分割の場合には合意なく手続できます。

詳しくは、以下のページで解説していますので参考にしてみてください。

年金分割について詳しく見る

離婚時に年金分割をしないと損をする可能性がある

専業主婦(主夫)の方や、配偶者より厚生年金保険料の納付額が少ない方は、年金分割をしないと年金分割を行った場合に比べて、将来受け取れる年金額が減ってしまいます。

年金は、老後の生活を支える大切な資金です。特に婚姻期間が長く専業主婦(主夫)であった方は、将来受け取れる年金額に大きく影響する可能性もあるため、きちんと年金分割をしておくことをおすすめします。

なお、配偶者よりもご自身のほうが厚生年金保険料の納付額が多い場合、年金分割をしなくても特に影響はありません。

離婚時に年金分割をしなくてよいケースはある?

このように年金分割は、専業主婦(主夫)で収入がない方や、配偶者よりも収入が低い方などにとって、将来の年金を少しでも多く受け取るために重要な手続です。
ただし、以下のケースでは、年金分割をしなくてもよい可能性があります。

配偶者が厚生年金に加入していない

年金分割ができるのは、「婚姻期間中に納めた厚生年金保険料の納付実績」の部分です。
そのため、配偶者が婚姻期間中に厚生年金に加入していない場合は、年金分割ができません。

たとえば、自営業者・自由業・農業従事者等は、年金分割の対象外である国民年金に加入している第1号被保険者にあたるため、年金分割ができないことになります。

自身の年金加入期間が10年未満

公的年金を受け取るためには、国民年金または厚生年金に加入して保険料を納めた期間が10年以上必要です。年金の受給が開始される65歳の時点で加入期間が10年に満たないと、年金分割をしても年金を受け取ること自体ができません。

ただし、65歳を過ぎてからも保険料を納め続け加入期間が10年を超えれば、年金を受け取ることが可能です。
そのため、加入期間が10年を超える見通しであれば、年金分割をしておいたほうがよいでしょう。

年金分割をしないことに合意している

夫婦間で合意しているのであれば、年金分割をしなくても問題ありません。

たとえば、婚姻期間が短いケースでは、年金分割をしても将来受け取れる年金額に反映されるのは数千円程度である可能性もあります。
将来、少しでも年金を多く受け取るためには年金分割をしておいたほうがよいといえますが、場合によっては年金分割をしないという選択肢もあり得るでしょう。

離婚時に年金分割をしないことに合意するリスク

年金分割は、厚生労働大臣等に対する公法上の請求権です。そのため、離婚する際に「年金分割をしない」と合意したとしても、あとから年金分割を求めることはできます。
しかし、以下のようなリスクもあるため注意が必要です。

取決め内容によっては合意分割ができないおそれがある

合意分割の場合には、按分割合を決めなければなりません。
そのため、たとえば「年金分割の按分割合に関する調停や審判の申立てをしない」などと取り決めた場合、離婚後に年金分割を請求しても按分割合を決められず、結果として合意分割ができない可能性があります。

なお、3号分割であればそもそも合意の必要がなく、当然に2分の1ずつ分割されるため、「年金分割をしない」と合意したとしても手続を行うことが可能です。

年金分割の交渉に応じてもらえないおそれがある

年金分割は、分割する側にとっては利益のない制度です。そのため、具体的な取決めをしていないケースであっても、元配偶者が年金分割の交渉に応じてくれるとは限りません。

当事者間で話合いができない場合には、家庭裁判所に調停または審判を申し立て、年金分割の按分割合を決めることになります。ただし、相手が頑なに応じないなど、状況によっては解決までに時間がかかるケースもあるため注意が必要です。

年金分割できる期間を過ぎてしまうおそれがある

年金分割を請求できるのは、離婚した日の翌日から2年間です。2年を過ぎてしまうと、年金分割の請求はできなくなってしまいます。

離婚後に「やっぱり年金分割の請求をしたい」と思っても、合意分割において元配偶者が交渉に応じてくれないと期限内に手続ができないおそれもあるため注意が必要です。

なお、2年以内に調停や審判を申し立てれば、按分割合が決まったときに2年が過ぎていても、6ヵ月以内に手続することで年金分割をすることはできます。しかし、確実に年金分割をしたいのであれば、離婚の際に取り決めておいたほうがよいでしょう。

年金分割をしないで離婚した場合はどうすればいい?

なかには、「年金分割制度を知らなかった」などの理由で、年金分割の取決めをせずに離婚してしまった方もいらっしゃるかもしれません。
その場合、離婚した日の翌日から2年以内であれば離婚後でも年金分割の手続ができます。以下の流れで取決めや手続を行いましょう。

  1. 年金分割のための情報通知書を取得する
  2. 話合いまたは調停・審判で取決めを行う
  3. 年金事務所で手続する

それぞれ詳しく解説します。

①年金分割のための情報通知書を取得する

まずは年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を取得し、年金分割を請求すべきか判断しましょう。
以下の要件を満たす場合には、年金分割を請求できます。

  • 元配偶者に婚姻期間中の厚生年金記録がある
  • 自分より元配偶者の標準報酬月額・標準賞与額のほうが高い
  • 請求期限(原則、離婚した日の翌日から2年以内)を経過していない

②話合いまたは調停・審判で取決めを行う

合意分割の場合、元夫婦間で年金分割について話し合い、按分割合を取り決めます。
合意できた場合には、合意した按分割合がわかる以下のような書面(いずれか1つ)を作成しておくことが大切です。

  • 双方の署名をした合意書
  • 公正証書
  • 公証人の認証を受けた私署証書

合意できなかった場合には、家庭裁判所に調停または審判を申し立て、年金分割の按分割合を定めることになります。

3号分割の場合、元夫婦間で取決めを行う必要はありません。

③年金事務所で手続する

合意分割の場合、請求者の現住所を管轄する年金事務所に、元夫婦が揃って「標準報酬改定請求書」を提出することで手続できます。
手続の際には、以下の書類の持参が必要です。

  • 基礎年金番号またはマイナンバーがわかる書類
  • それぞれの戸籍謄本
  • 按分割合を定めた書類(公正証書、調停調書、確定判決など)

3号分割の場合、按分割合を定めた書類は必要なく、請求者が一人で手続できます。

まとめ

専業主婦(主夫)の方や、配偶者より厚生年金保険料の納付額が少ない方は、年金分割をしないと年金分割を行った場合に比べて、将来受け取れる年金額が減ってしまいます。
婚姻期間が長い夫婦が熟年離婚をするケースなどでは、年金額への影響が大きくなる可能性もあるため、必要に応じきちんと手続をしておくことが大切です。

しかし年金分割は、分割する側にとっては利益のない制度であるため、相手が積極的に合意をしてくれるとは限りません。夫婦間で話合いがまとまらない場合には、弁護士に依頼し、代わりに交渉してもらうことも検討するとよいでしょう。

アディーレ法律事務所では、離婚に伴う年金分割の取決めについて、ご相談を承っております。
将来損をしないよう適切に離婚の取決めを行い、スムーズに離婚したいとお考えであれば、ぜひ一度ご相談ください。

監修者情報

林 頼信

弁護士

林 頼信

はやし よりのぶ

資格
弁護士
所属
東京弁護士会
出身大学
慶應義塾大学法学部

どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。

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