養育費の支払いは法律上の義務!いつまで支払う?支払わないとどうなる?
- 公開日:2024年10月7日
- 更新日:2024年10月07日
離婚時に取り決めておくべき条件の一つに、子どもの養育費があります。
しかし、「養育費は必ず支払わないといけないの?」、「支払わないとどうなるの?」など、疑問や不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
養育費は子どもの成長を支えるための大切なものです。安易に支払いを拒否したり、取決めをしなかったりすると、将来トラブルに発展する可能性もあります。
このコラムでは、養育費の支払義務について、弁護士がわかりやすく解説します。
お子さまのためにも、支払うべき金額や期間、支払わない場合のリスク、減額が認められる可能性があるケースなどについて理解を深めていきましょう。
目次
この記事を読んでわかること
養育費の支払いは法律上の義務
養育費は、生活費・医療費・学費など子どもを育てるのに必要なお金です。
そして、養育費の支払いは、未成熟子をもつ親が負う法律上の義務とされています。
離婚すると、監護親とならないほうの親は子どもと離れて暮らすことになるのが一般的です。しかし、子どもの親である事実は変わりません。そのため、離婚後も養育費を支払う義務があります。
養育費はいくら支払う義務がある?
養育費の金額は、法律で明確に決められているわけではありません。父母間の話合いで合意できれば、具体的な事情を踏まえ自由に金額を決められます。
実際には、裁判所が公表している「養育費算定表」をもとに金額を決めるのが一般的です。調停や裁判になった場合も、この算定表をもとに支払うべき養育費を算出します。
なお、以下のツールでもおおよその養育費の目安を算出することが可能ですので、参考にしてみてください。
養育費はいつからいつまで支払う義務がある?
養育費の支払義務は、原則として「請求があったとき」から発生します。
「請求があったとき」とは、権利者(養育費を受け取る側の親)が明確に「養育費として○○円支払ってほしい」と意思表示したときです。
また、養育費の支払義務があるのは、一般的に「子どもが18歳になる(経済的に自立していなければ満20歳に達する日、またはその日の属する月)まで」とされています。
ただし、お互いの合意があれば、「子どもが大学を卒業するまで」などと取り決めることも可能です。
※民法改正のため、2022年4月1日より、成人(成年)年齢は20歳から18歳に引き下げられました。ただし、子どもが「20歳」になるまで養育費を受け取る旨の取決めをしている場合は、子どもが20歳になるまで養育費を受け取ることができます。同様に、改正法施行前に、子どもが「成人」になるまで養育費を受け取る旨の取決めをしていた場合、引き続き、子どもが20歳になるまで養育費を受け取ることができると考えられます。
養育費の支払義務を果たさない場合のリスク
法律上、養育費を支払わないことに対する罰則はありません。
しかし、原則として養育費の支払いを拒否することはできません。また、養育費を支払わないままでいると、以下のようなリスクが生じます。
遅延損害金・一括請求を受ける
養育費を支払うことを約束したにもかかわらず支払いが遅れた場合、遅延損害金を支払わなければならない可能性があります。
遅延損害金の法定利率は、年3%(令和2年3月31日以前は年5%)です。
支払いが遅れた日数に応じて加算されるため、長期間遅れると多額の遅延損害金が発生するケースもあります。
また、長期にわたり滞納が続いた場合、権利者は養育費を一括で請求することも可能です。
一括請求が認められれば、金銭的に大きな負担となる可能性があるでしょう。
裁判所から督促を受ける
調停・審判・裁判などで養育費の取決めをしたにもかかわらず養育費を支払わない場合、裁判所から養育費を支払うよう、直接、督促を受けることがあります(履行命令・履行勧告)。
履行命令・履行勧告にはいずれも強制力はありません。ただし、履行命令に正当な理由なく従わない場合は、10万円以下の過料に処せられます。
財産を差し押さえられる
養育費の取決めについて強制執行力のある書面(公正証書・調停調書・審判書など)を作成している場合、権利者は強制執行を申し立てることにより財産の差押えができます。
養育費の強制執行では、未払い分だけでなく将来分の養育費についても、給与債権などを継続的に差し押さえることが可能です。
なお、給与債権の差押えが決まった際には、裁判所から会社あてに通知が送られます。そのため、養育費を支払っていない事実を勤務先に知られることになるでしょう。
財産開示手続などに応じないと罰金などの刑事罰が科せられる
権利者が強制執行を申し立てるには、義務者(養育費を支払う側の親)の住所や勤務先、財産などを把握していなければなりません。
2019年5月に成立した改正民事執行法の施行(2021年から全面施行)により、権利者は裁判所を通じた手続をとることで、市区町村役場や金融機関などに対し、義務者の勤務先や財産について情報取得を求められるようになりました。
権利者が情報開示請求をしたにもかかわらず、義務者が拒否したり、ウソの情報を開示したりした場合、6ヵ月以上の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
子どもの祖父母が扶養料を支払うことになる
法律では「直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められています(民法第877条)。
つまり、直系血族である義務者の両親(子どもからみた祖父母)には、孫の扶養義務があるということです。
しかし、養育費の支払義務は、法律上の親子関係によって生じます。
そのため、義務者が養育費を支払わなかったとしても、祖父母に養育費を支払う義務はありません。
ただし、権利者とその子どもが経済的に困窮しており、かつ祖父母が経済的に余裕のある生活をしている場合、請求があれば祖父母が「扶養料」を支払うことになる可能性があります。
養育費の支払義務が減額・免除されるケースもある
このように、原則として養育費は子どもが独立するまで「支払わなければならない」性質のものです。ただし、以下のようなケースでは支払義務が免除されたり、一度取り決めた養育費の減額が認められたりする可能性があります。
再婚したケース
離婚後、父母がそれぞれ再婚した場合には、養育費の減額・免除が認められる可能性があります。
ただし、再婚したからといってそれだけで減額・免除が認められるわけではありません。
養育費の減額・免除が認められる可能性があるのは、たとえば以下のようなケースです。
- 権利者の再婚相手が子どもと養子縁組をしたケース
- 義務者が再婚相手の連れ子と養子縁組をしたケース
- 義務者と再婚相手との間に子どもが生まれたケース
詳しくは、以下のコラムでも解説していますので参考にしてみてください。
収入が変わったケース
就職・転職・昇給などで権利者の収入が増えた場合や、やむを得ない事情で義務者の収入がなくなった・減少した場合、養育費の減額が認められる可能性があります。
義務者の収入がなくなった・減少したケースにおける「やむを得ない事情」とは、以下のような事情です。
- 会社が倒産して失業した
- 病気・ケガで働けなくなった など
浪費やギャンブルによる借金で経済状況が悪化したり、自分の意思で仕事を辞めて収入が減ったりした場合には、「やむを得ない事情」とはいえず、減額が認められない可能性が高いでしょう。
養育費を支払わないことに合意したケース
特別な理由がなくても、父母がお互いに合意すれば、「養育費を支払わない」と取り決めることも可能です。
ただし、義務者が権利者に対し合意を強要した場合には、養育費を支払わないことを書面に残していたとしても、無効となる可能性があります。
なお、状況によっては権利者が「養育費はいらない」といって養育費の請求権を放棄することもあるかもしれません。しかし、そのような場合でも事情が変わった場合などには、あとから養育費を請求できるケースもあります。
また、養育費の請求権は実質的に子どもの権利です。そのため、親が養育費を受け取ることを放棄しても、事情が変わった場合には子ども自身が請求できるケースもあります。
養育費の支払義務について覚えておくべきポイント
養育費をめぐるトラブルを防ぐために、以下のポイントについても覚えておくとよいでしょう。
養育費の支払義務は自己破産してもなくならない
借金が返せなくなり自己破産するケースにおいて、仮に借金が免除されたとしても、養育費の支払義務は免除されません。
そのため、借金の返済に追われ養育費の支払いが滞っていた場合などでも、未払い分の養育費を支払う必要があります。
また、将来の養育費についても、支払義務が残ります。
離婚時に取り決めたとおり、養育費を支払い続けなければならないということです。
養育費の支払義務自体は相続されない
義務者が亡くなった場合、養育費の支払義務は原則として亡くなった時点で消滅します。そのため、将来の養育費の支払義務が相続人に引き継がれることはありません。
これは、養育費の支払義務は、亡くなった義務者にのみ結びつく「一身専属権」とされているためです。
ただし、未払いの養育費がある場合、借金などの債権と同じく相続の対象となります。
つまり、たとえば義務者が再婚している場合には、再婚相手などの相続人が相続放棄をしない限り、未払い分の養育費を支払う必要があるということです。
一方で、養育費の支払対象である子どもも相続人の一人です。そのため、ほかの相続人は、未払い分の養育費の全額ではなく、相続の割合に応じた金額を支払うことになります。
養育費以外の特別費用には当然に支払義務は発生しない
養育費には、経済的・社会的に自立していない子どもが自立するまでの生活費、医療費、学費などが含まれます。
しかし、以下のような費用は養育費のなかに含まれません。
- 予期せぬ病気・けがの治療費
- 私立学校や大学・専門学校の学費
- 塾・習いごとの費用
このような、突発的に発生する一時的な費用を「特別費用」といいます。
特別費用は養育費とは異なり、義務者が当然に支払わなければならない性質のものではありません。
そのため、これらの費用を含めた金額で養育費の取決めを行うには、お互いの合意が必要です。
養育費の支払いや減額について取り決める方法
このように、状況によって減額などが認められるケースはあるものの、基本的に養育費はきちんと支払う必要があります。
そして、義務者が一方的に支払いを拒否したり、勝手に金額を変更したりすることはできません。
そのため、以下のいずれかの方法で適切に取り決めを行いましょう。
- 父母間で話し合う
- 調停で話し合う
- 審判で決定する
それぞれ詳しく解説します。
父母間で話し合う
まずは、当事者同士で養育費の支払条件や減額について話し合います。
話合いで合意できた場合は、将来のトラブルを防ぐためにも、取り決めた内容を記載した合意書を作成しておきましょう。
調停で話し合う
当事者同士での話合いがまとまらない場合や、相手が話合いに応じてくれない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。
調停では、調停委員がそれぞれから話を聞き、意見の調整をしてくれます。
ただし、調停もあくまで話合いにより合意を目指す手続です。
合意できれば調停は成立しますが、合意できなければ調停不成立となり、審判の手続に移行します。
審判で決定する
調停で合意できなければ、審判で養育費が決められます。
審判では、お互いの主張や資料などから、養育費の支払条件や金額の変更が相当であるかどうかを裁判官が判断します。
なお、離婚審判は離婚調停のなかで行われる手続であるため、自分で審判を申し立てることはできません。一方で、養育費に関する審判は、調停を経ずに申し立てることも可能です。
養育費についてスムーズに取り決めるには?
養育費について取り決める際、当事者同士での話合いが難しい場合や、話合いがなかなかまとまらない場合には、ご自身で対応せずに弁護士に相談することも検討するとよいでしょう。
弁護士であれば、適切に支払うべき養育費を算定したうえで、あなたの代わりに交渉することが可能です。精神的・時間的な負担が軽減できるだけでなく、スムーズに話合いがまとまる可能性も高くなるでしょう。
また、調停や審判など裁判所の手続が必要な場合も、状況に応じて適切に対応してもらえるため安心です。
まとめ
養育費の支払いは、未成熟子をもつ親の義務です。離婚後の状況の変化に応じ減額が認められる可能性はありますが、きちんと父母間で話合い、合意する必要があります。
父母間のトラブルを避け、お子さまの生活と成長を支えるためにも、離婚する際や離婚後に状況が変わった際には養育費についてきちんと取決めを行いましょう。
ご自身で適切な養育費を算定し、取決めを行うことが難しい場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
アディーレでは、離婚に伴う養育費の取決めはもちろん、離婚後に未払いが発生した際の養育費の請求に関するご相談を承っております。お困りのことがございましたら、まずはお気軽にご相談ください。
監修者情報
- 資格
- 弁護士
- 所属
- 東京弁護士会
- 出身大学
- 慶應義塾大学法学部
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。